「S商店」
噂では聞いていた
そういう商店が本当にあるという事を呑んでいる時に友人から聞かされていたから知ってはいたのだ
しかし行ってみてもなかった
言われている場所に行ってみても
それが今はある
S商店
気まぐれなのかなんなのか
前回来た時はなかったものが今はあるのは私にはどうにも解せない
前回は全く客のいないレンタルビデオ屋だったはずなのに、今は当たり前のようにこの店が軒をつらねている
私は恐る恐る入ってみた
店の中は割りとゴミゴミしていて、所狭しと商品がならんでいる、所謂よくあるホームセンターといった所か
お客も店先で入るかどうか悩んでいた時に誰も入っていかなかったので少ないのかと思っていたのだが割りといる
少し暗めに感じる店内を歩いてみるとまず目に入って来たのは服売り場だった
そこには何故か1月なのにビーチ感を出したマネキンが水着でビーチボールを使って遊んでいる
冬用の品等一着もない
少し目をそらすとそこには靴下が置いてあった
勿論夏用だ
そしてそこからも、夏用以外の違和感を感じる
22.5の靴下が高い所に、30.0の靴下が低い所に置かれているのだ
そう
ここはまさにS商店
ドSな商店なのだ
店内を歩くと商品や置き方、がどれをとっても一々意地悪なのだ
電化製品売り場を見ると、スイッチが無いので点きっぱなしの蛍光灯や、オス2メス1の延長コードや、リモコンが本体から離れないテレビや、そういったものが並んでいる
食料品売り場にいくとそこは靴しか置いてないし、家具売り場なんてビニールシートしか置いていない
家具売り場にビニールシートしか置いていない事については深くは掘り下げないが、誰がそんなにビニールシート使うねん!意外のツッコミでその場をまとめた事は一応伝えておこう
しかし噂通りの所だ
こういう店があるという事を友人から聞いて知ってはいたのだが、まさかここまでとは
一応最近文房具を新調したかったので、文房具売り場を探してみた
色んな意地悪をされて見つけるのに三時間かかったのだがなんとか文房具売り場に辿りついた
文房具売り場に辿り着くまでにパーティーグッズの鼻眼鏡を買わされた私は、時々なる鼻眼鏡のネジの音に驚きながらも文房具売り場を歩いてみた
S特有の気まぐれなのかなんなのか、不思議な事にここだけなんの意地悪もなかった
種類も豊富だし、ちゃんとしたモノがちゃんとした所に置かれている
少し安心した私は、筆箱、定規、シャーペン、ボールペンと揃えていった
全部が揃い始めた頃、突然その不幸が私を襲った
あれ?
消しゴムが無い・・・
そこには消しゴムがなかったのだ
修正液もその類いのモノ全部がない
シャーペンの後ろの消しゴムまで外されている徹底ぶりだ
恐ろしい
それは失敗はゆるされないという脅迫を受けながら書かないと行けないという店側からのメッセージだ
シャーペンですらボールペンだ、書く時にシャーペンを選ぶ必要等もやは無いに等しい
一度安心させておいて地獄に突き落とす感じに私は恐怖し、一応揃えた文房具を手にもち売り場を出た
もうこのような所にいては精神的に耐えられないと感じた私はそそくさとレジに向かう事にした
すると
レジ横に18禁と書かれたノレンがあるではないか
これは行かない手はない
どんなものが並んでいるのだろう
この場合Sよりなアダルトビデオが多いのかMよりなアダルトビデオが多いのかわからない
どっちなのだろうか、客側の事を考えるとこういう店なので客層を考えた結果Sよりが多いのかも知れない
しかしそこはS商店だ
そのままSよりなアダルトビデオを置くとは思えない
私は論より証拠とばかりにそのノレンをくぐってみた
するとそこには観葉植物と、小学生用の教材が並んでいた
私は酷い罪悪感に襲われた
明るい光が窓から差し込み、そこの棚には昔つかった時計の教材や、磁石等が並べられていて、所々に小さい鉢に植わった観葉植物が置いてあり
棚の上のテレビからはアダルトビデオではなく、甲子園で白球にくらいつき泥だらけになる高校球児の映像が流されていた
完全に疲弊しきった私はすぐさまそこを出てレジに向かった
あまり混んでいないレジには一言こういう書き置きがあった
『いくら待たれても店員は来ません、最終的なSかMの判断はお客様にお任せしております』
私は考えたあげく、買った商品のお金を置いて帰る事にした
それがSの行為なのかMの行為なのかは自分の中で動くモノなので、他人にはわからないんだろうなと思いながら店を出た
なんとなく
後ろのおじさんが私のお金をポケットに入れたのを確認しながら