「オジサン」





みつからなかった





ペンキ屋などそんなにあるわけではないし、そんな知り合い等カラスである私にはいるはずもない





ある日その事件は起こった

平和の象徴である鳩が、我がカラス城に攻め込んできたのだ

完全に平和ボケしていた我々カラスの軍団は、洗練された鳩軍団の精鋭部隊の前になすすべもなかった

美しい鶴翼の陣で攻め入ってくる鳩軍団に対して私たちは『鳩のくせに鶴て』と言うしかなかった

そのまま一気に制圧し、略奪、強姦を繰り返して、最後にゲラゲラ笑いながらまるで悪ふざけのように、真っ黒だった我々のカラス城を真っ白に塗って去っていった





私はその真っ白になったカラス城を、真っ黒に戻すという任務につく事になった





嫌だった





だから私はいつもここに来て時間をつぶしていたのだ





ここはいい

誰にもみつからないのでボケーっと出来る

時折民家の窓からヌイグルミにみられてる気もしたが、そんなわけはない

相手はただのヌイグルミだ

仕事をサボっているという負い目からそういう気がしただけだろう





しかしいつまでもこうしてはいられない

早く終わらせて楽になりたい

ただ、私にはなんのコネクションもない

一介のカラスが、人間になどコネクションがあるわけがないのだ

私は考えた

すると

その辺にいるオッサンを適当に見繕って連れていけば、上手くいけば人間とのコネクションも出来るし、ヘタしたらその人がペンキを扱った事があるかもしれない

という考えに辿り着いた

我ながら名案だ






私はさっそく準備し、カラス城から部下達を呼び寄せ、入り易くしかも入って騒がれても大丈夫そうな家を見繕って、一人のオジサンを拉致してカラス城に戻った





いよいよ私が拉致ってきたオジサンとカラスの女王が対面する時がきた

湯浴みを終えた女王はいつもよりも艶かしい

美しい

女王は我々の憧れの的だ





『まさにカラスの行水やな』





このジジイなんて事を言うのだ

私は聞こえないフリをしたが、完全にハラワタが煮えくり返った

ブチ殺してやる

しかし、取りあえず白くされてしまった城を黒く塗り替えてもらわないといけない

その為に一度我慢する事にした





聞こえていたのか聞こえていなかったのか

女王は大人の対応をした

『アナタにここに来て頂いたのは他でもありません、先日ここカラス城は鳩軍団に攻め込まれ、城を真っ白にされました、どうかいいペンキ屋を紹介してはもらえないでしょうか?』





するとジジイは答える事もなく、逆に質問してきた

カラスが下手に出ているからといってナメている証拠だ





『なんで黒に塗り替えたいのですか?白のままでもいいじゃないですか?』





なんて不届きなヤツだ

まあ勝手に拉致して連れてきた私が言うべきではないのかもしれないが、『拉致をされても礼儀あり』という言葉を知らないのかこの無教養めと思った

するとそんな私の怒りを制するかのように、女王が答えた

『え?なんか黒になれてもうて白やと目がチカチカするし・・・』

いかにも女王らしい、気品と教養が漂う答えだ

すると何を思ったのかそれを聞いたジジイが『ぷ』と笑った

さすがの女王も耐えきれず殺しの合図を出した

『カズー!!バモラー!!!!』





何故か気を失ったジジイを殺す事など簡単な事だった

およそ千羽のカラスがジジイをついばみ、食べた




ジジイの亡骸を海に捨て

私は次のターゲットを探しに旅にでた





もう失敗は許されない

今度は少々リスクをおかしてでも、真面目そうな人がいい

一人暮らしならいいか





そうだな





あそこでクマと戦っている青年でもいいだろう

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