『たこやきの中の独唱』
前の男はとにかくでかかった
僕自身身長は結構高い方なのに、それでもその男の広い背中は僕には邪魔になった
前の男がでかいせいで、これから僕の口に入る予定のたこやきが見えない
いい匂いはしている
たこやきの焼ける音も上々だ
ただ一つ
ただ一つだけ僕の邪魔をしているのはこの大男だ
僕は空を見上げた
よく澄んだ、とても青い大空だ
それにしても空が青でよかった
なぜ?
落ち着くから
本当に?
うん、この空が例えば赤だったら落ち着かないでしょ?
そうでもないかもよ?
どういう事?
空は絶えず目に入る色だから青が落ち着く色になっただけかも
ずっと落ち着かなかったらもたないでしょ?
その色が良かったのではなくて、その色に順応した?
そう
空の色が赤だったら赤だったで赤が落ち着く色になってたかも
それは言えるね
そうかな?
そう思わない?
う~ん、やっぱり赤は落ち着かないと思う
どうして?
血が赤だから
ああ、確かにね
血の赤をみて落ち着くわけにはいかないでしょ?
その場合は血が青になってたかも
それは感覚の問題じゃないから違うでしょ?
わからないよ?
わからないって言ったら確かにわからないけど
環境に順応して血が赤になったんだから、やっぱり血は赤でしょ?
あ、夕日は?
赤じゃねえよ
赤じゃないね
赤に入れない?
入れない
でもさ、そもそも青が落ち着くってのは君だけかも知れないよ
え?
そう
確かに
僕は抜けるような澄んだ青空は悲しいな
え?
え?
え?
悲しいの?
悲しい
どうして?
もの凄く仲が良かった友達が死んだんだ、その日の空がもの凄くキレイな青だった
その時の悲しい記憶?
そう、悲しい記憶
独りになった、悲しい記憶
それを初めて感じた時の印象ってのも大きいかもね
そうだね
キレイな空を感じた時にあった感情
悲しい記憶
独りになった、悲しい記憶
外からこの地球をみたらどうなんだろうね
青いらしいけど
わかんないよね
うん
この空がまず地球を覆ってて、その下に空気があって地球があるはずでしょ?
うん
地球はたこやきで言う所のたこだ
だね
空気がとろとろの中の生地で
青い空がかりかりの外側って感じかな?
そうだよ、んでさ
500円です
寡黙なオヤジの一言は
僕に至福をもたらした