「あげるとこうなる」
僕が手をあげる。
タクシーが止まる。
先生が僕をさす。
タクシーの扉が開く。
先生が答えを黒板に書くよう言う。
僕は動かない。
タクシーの運転手が乗らないのかと言う。
先生がチョークをさし出す。
僕は動かない。
タクシーの運転手がタクシーから降りる。
先生がどうしたと問いかける。
タクシーの運転手が先生に気づく。
先生がタクシーの運転手に気づく。
タクシーの運転手が先生に、こいつは俺の客だと言う。
先生がタクシーの運転手に、この子は私の生徒だと言う。
タクシーの運転手が先生の胸ぐらをつかむ。
先生がタクシーの運転手の胸ぐらをつかむ。
僕は動かない。
タクシーの運転手がパンチをお見舞いする。
先生が大の字に倒れる。
タクシーの運転手がガッツポーズをする。
先生が大の字に倒れる。
タクシーの運転手がウイニングランをする。
先生が大の字に起き上がる。
タクシーの運転手が野山を駆け回る。
先生が大の字とつぶやく。
タクシーの運転手が小動物たちと戯れる。
先生が大の字を山に焼く。
タクシーの運転手が小動物たちに嫌われる。
先生が山を焼く。
小動物たちがタクシーの運転手を置き去りにして山に帰る。
先生が大嫌いなあいつの家を焼く。
小動物たちは自分たちの山が燃えているのを呆然と眺める。
先生が大嫌いなあいつを焼く。
小動物たちはだいたい草食動物だ。
先生と呼ばれる職業って意外とたくさんある。
小さく動く物。小動物。
先生と呼ばれない職業の方がもっとたくさんある。
小さな栗が旬。小栗旬。
世の中には2種類の職業しかない。先生と呼ばれる職業と先生と呼ばれない職業と消防士だ。
僕は手をおろす。
タクシーの運転手が走り去る。
先生が他の生徒をさす。
焼かれた山と、焼かれた家と、焼死体が残る。