「ハンバーグは消えた」

昼休みに妻からのメール。
「今日晩ごはん何がいい?」
僕は10秒以内に「ハンバーグ!」と返信。
しばらくすると、妻から親指をグッと立てた写メだけが送られてきた。
早めに昼休みをきりあげる。
サッサと仕事を片付けねば。
残業なんかしてる場合ではない。
妻のハンバーグはバツグンにうまいのだ。
口の中はすでにハンバーグ。
もう今晩は妻のハンバーグ以外のものは食べられない。
黙々と仕事。
仕事とハンバーグに集中。


予定外の仕事を1つ頼まれたが、それでも余裕を持って今日の分の仕事は終了。
チラと携帯を見る。
メールの着信有。
13件。
13件!?
迷惑メールか?と思ったが、すべて妻から。
何かあったか?
にしては電話の着信はない。
1件ずつ確認。
最初のメール。
本文はなし。
お巡りさんの帽子をかぶった妻が笑顔で敬礼をしている写メ。
はてなだらけになる僕の頭。
次のメール。
本文はなし。
天狗の面をかぶっている妻の写メ。
頭の中のはてなたちがパンパンに膨らむ。
次のメール。
もちろん本文はなし。
食パンの写メ。
一度携帯から目をはなす。
頭の中のはてなたちは膨らみすぎてただの棒に。
思考をOFF。
機械的に残りのメールをみる。
すべて本文はなし。
むきかけのバナナの写メ。
ピアノの鍵盤のドアップの写メ。
キキ(猫)に無理やり万歳させている写メ。
麻雀牌の中(チュン)の写メ。
手書きの矢印の写メ。
パーキングエリアのPのマークの写メ。
床屋の前にあるクルクルの写メ。
公園のトイレの男女のマークの写メ。
知らない家族が6人笑顔で並んでいる写メ。
ピントがぶれぶれの(おそらく)救急車の写メ。

これらのメールを確認している最中にも、夕焼け空の写メが送られてきた。


わかった。
キキのあたりでうっすらと。
手書きの矢印ではっきりと。
わかった。
絵文字だ。
携帯の絵文字の実物を、写メで撮って送ってきているのだ。
携帯の絵文字を確認。
知らない家族の集合写真以外は思い当たるものがあった。
絵文字だ。
写メ文字か。
たぶん、僕のハンバーグメールに返信した親指写メがきっかけだろう。
絵文字で送ろうとしたが「あ!これわざわざ写メで送ると面白い!」と思ってしまったのか、
もともと親指の写メが(なぜか)あって、思いがけず絵文字の代わりに使えたのが嬉しくて、その類の写メをたくさん撮ろうと思い立ってしまったのか。
まったく別の理由か。
いずれにしろ、親指以外の写メには意味はないはず。
お巡りさんや天狗や食パンなどに、特に意味はないはず。
ただただ、
絵文字なものをみつけて嬉しくなって送ったのだ。
テンション上がっちゃったのだ。
途中(パーキングのPくらい)から我慢できなくなって家から外に出ちゃったのだ。



夕焼け空の写メは数分前のものだ。
妻はまだ外で絵文字な風景を探しているだろう。
夢中で。
笑顔で。
当分帰ってこないな。

僕の口の中から、ハンバーグが消えていった。

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