「散歩でも行く?」
僕は耳を疑った。
表情こそ無表情だたものの、
心臓のバクバク加減はどんどん上昇していった。
そんな僕を、
何事もなかったかのように、
猫がおとなしく座ってみている。
僕も猫をみる。
猫は僕をみることに飽きている。
普通の猫。
3年前に僕が拾ってきた普通の猫。
僕はまだ猫から目を離せない。
猫は僕の存在に飽きている。
そのとき、
ゆっくりと、
奥の部屋の扉が開いた。
妻が立っていた。
1人で立っていた。
彼女を支えているのは
車椅子でもなく、
杖でもない、
2本の足。
ほそいほそい
2本の足。
「散歩でも行く?」
もう一度、妻が言った。
僕は今度は耳を疑わなかった。
言葉の代わりに、涙が出てきた。
涙が言葉の代わりに、妻にすべてを伝えてくれた。
「にゃあ」
そして僕の代わりに、猫が妻に返事をした。