「彼は命拾いをしている」
目の前にはチンコがある
我が身の安全を保つ為につり革につかっまったその手は他の男性に比べて少し白くて細い
右手で携帯をいじくりたおし、ニヤニヤしているその青年と私は何の面識もない
しかし彼は、人の急所ともいえる股間を見ず知らずの私の前にさらけ出している
さらけだしていると言ってもガードをしていないだけでしっかりとズボンにしまいこんではいるのだが、防御方法がズボンのみというずさんさだ
既に日本の安全神話など崩壊しているのに、平和ボケした彼は左手でつり革につかまり、反対の手で携帯をいじくりたおしながらニヤニヤしている
ときおり携帯を持ったままメガネにかかる前髪を上げる彼は、明らかに私の事など警戒していない
彼の人生は私が握っている
目の前にある股間を、思いっきりパンチしたら人生が変わるとは思わないかい?
彼も
そして私も
思えば今までの人生平凡に生きて来た
人を殴る事なんて小学生の時墨汁でTシャツを汚されて以来だ
そんな私が今まさに
電車の中で
座席に座っている私が
見ず知らずの男性の
目の前にある見ず知らずの股間を
思いっきりこの拳で殴ろうとしている
彼はこの事に気付いていない
はたして
男性の股間を殴った場合どうなるのか
この拳にチンコの感触がグニュリと伝わるのか
もしかしたら大きな音を立てて破裂するかも知れない
その瞬間つり革を持つ手の小指がたったらいいな
でも、一番はやっぱり殴った瞬間おしりから『ポン』という音を立てて出て来てくれるのがいい
そして私の正面、彼の背後の席に座っている出来の良さそうな小学生に
『おじさん何か落としましたよ』
と言って拾われて欲しい
等と思っている間に銀座についた
今日も大して美しくもない人に『美しいですね』と言わないといけない仕事だ
股間を殴るのはまた今度にしておいてやろうと思って電車をおりた
明日もまた同じ事を思うのだろう
昨日の様に