「ニンジン」
キュウリで頭を叩いてくれと頼まれた
とあるとても天気のいい日に駅前を歩いていると
見ず知らずのおじさんから『このキュウリで頭を叩いてくれ』と頼まれた
僕は一瞬とまどい、『例えキュウリをそっちで用意しているとは言えど、そんな知らないおじさんの頭をキュウリで叩く事なんてできない』と思い、断った
しかし、おじさんがあまりにしつこかったので話だけでも聞いてあげる事にした
するとおじさんは、自分が呪われているという事を告白してくれた
ある日朝目覚めたら数千匹のカラスに乗せられて空を移動していた
しばらくすると真っ白なお城に連れて行かれて王の間に通された
そこには真っ黒でとてもキレイな大きめのカラスが座っていて水浴びをしていた
水浴びはすぐに終わり、『まさにカラスの行水やな』と思っていたらその大きめのカラスが静かに口を・・・いや・・・くちばしを開いた
『アナタに来て頂いたのは他でもありません、先日ここカラス城は鳩軍団に攻め込まれ、城を真っ白にされました、どうかいいペンキ屋を紹介してはもらえないでしょうか?』
正直『いいペンキ屋を探すなんて自分じゃなくていいし、むしろ自分はいいペンキ屋なんて知らないぞ』と思ったが、面白そうだったのでこっちから質問を投げてみた
『なんで黒に塗り替えたいのですか?白のままでもいいじゃないですか?』
するとその大きめのカラスはこう答えた
『え?なんか黒になれてもうて白やと目チカチカするし・・・』
そこで『ぷ』っと吹いてしまったのが全ての間違いだった
突然大きめのカラスが『喝!』と言ったかと思うと気を失った
気づいたら自宅であるの段ボールハウスの中だったそうで、一瞬夢かと思ったがそれ以来頭で何かを壊したい衝動にかられるのだそうだ
僕は一瞬『このおっさんマジか』と思ったが、その目は真剣そのもので、その美しい眼から訴えかけるものは大きい
僕はおっさんの手をとり『僕でよければ』と答えた
一瞬吹き出しそうだったが、そこで『ぷ』と言ってしまうと、何が起こるかわからないので一応用心したが別に信じているわけではない、幽霊は信じないが心霊スポットは怖いのと一緒だ
さて
ついに産まれてはじめて見知らぬおっさんの頭をキュウリで叩く時がきた
おっさんは慣れているのか、正座して処刑を待つ武士のようにとても落ち着いている
その時がきた
辺りは数人のギャラリーはいるものの、駅前とは思えないくらい静まり返っている
『パーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!』
駅前に見ず知らずのおじさんをキュウリで叩いた音がこだまする
おじさんは僕に一礼し、ギャラリーからは拍手が巻き起こる
アンコールこそなかったが、それくらいの敬意のこもった拍手だった
おじさんは一言僕に
『キュウリで頭を叩かれるなんてかっぱの気持ちがわかった』と言った
僕はそれまでそのおじさんの、いさぎよさ、こだわり、礼儀正しさなどが気持ちよく、おじさんの事を好きになりつつあったのだが、その一言で変わった
腹が立った僕は『キュウリはかっぱの大好物であって、それでかっぱが叩かれる事は少ないので、かっぱの気持ちが分かったのではない』と、そのおじさんを戒めた
大人なおじさんは、『おおそうだな、悪い悪い』と言っていたがなんとなく腹の虫が収まらなかったので帰る事にした
僕の怒りを察したのか、おじさんは大きな声で僕を呼び止めようとした
『おーい!待ってくれー!もう一発お願いきいてくれー!』
僕は無視した
『次はにんじんで叩いて欲しいんだよー!』
僕は無視した
『次は馬の気持ちがあじわいたいんだよー!』
僕は無視できなかった
『だーかーらー!それはアンタがキュウリで叩かれてかっぱの気持ちがわかったって言うてるのと一緒でさ、ニンジンは馬の大好物やから馬がその大好物で叩かれるって状況がそんなにないの!わかる?前に吊るされて早く走らされる事はあるよ?いやないよ!それもほぼ漫画の中の話で現実にはないよね!そんな話はええねん!大好物で叩かれる事ってないやん?なんでそれが普通みたいな言い方してんの?鳩が豆鉄砲くらうみたいな感じやんか・・・大好物で攻撃されたらびっくりするよね?それの例えで出てるくらいやねんからそうそうない事なん、そもそもさ、カラスに連れて行かれたって何?真っ白な城ってどこ?何県?言うてみ?え?岐阜?へえ~岐阜にあるんや~新名所・・ばかやろう・・ないよ!そんな城!出来てたらもっとニュースになってるわ!カラスが城作りましたって、大体そんな事してんとちゃんと働けよ、お前が・・・・